以前、私が日本の色に詳しいことを知っている方に「日本の色でいちばん好きな色はなんですか」と尋ねられたことがありました。
好きな色はありすぎて、ひとつを選ぶのはとても難しいのですが、色の名前ならいちばん好きなものがあります。
それは「瓶覗き」という色名です。
この瓶とは藍染の藍瓶のことで、白生地をちょっとだけ染料に潜らせて、ごく薄く染めた色のことです。
水色よりもさらに淡い青色になります。
オーラソーマで言えば、「B50 エルモリヤ」のようなペールブルーか、もっと薄い色です。
https://artbeing.com/aura-soma/equi/B050.html
ほんの少しだけ瓶に潜らせることを「覗く」と表現したところが、粋というかユーモアがあるというか、それを色名にした昔の人のセンスにしびれます。
また、別な呼び方もあります。
白に少しだけ藍をかけて白でなくしたことから「白殺し」とも呼ぶのです。
この物騒な名前には、ちょっとドキッとしますね。
でも昔の日本ではこの「殺す」の表現を度々見かけます。
たとえば、おはぎなどで蒸したもち米の粒を半ば残すように調理するのを「半殺し」と呼んだり、開かない窓のことを「嵌め殺し」と言ったりします。
最初聞いたときはびっくりしました。
ところで、藍で染める手法は古くから世界各地にありました。
日本における伝統的な藍染めは、乾燥させた蓼藍(タデアイ)の葉を発酵させて「蒅」(すくも)というものを作ります。
葉のなかにいる微生物によって発酵するので、毎日水を与えて攪拌するなど、手間がかかります。
発酵の最中は温度が70度近くになり、アンモニアガスが発生する過酷な状況。
蒅(スクモ)が完成するまでに100日くらいかかるのだそうです。
それを小麦の糠(ヌカ)である「フスマ」と酒、灰汁(アク)などと混ぜてさらに瓶のなかで発酵させます。
こうして藍染ができる状態の染料にすることを「藍を建てる」と言います。
「建てる」と表現するくらい、藍染の工程とはいくつものプロセスを積み上げて完成させる、綿密な作業なのです。
そして微生物による発酵なので、藍の染料にはやがて寿命がきます。
白い布を藍色に染める力がだんだん弱くなるのです。
藍はまさに生き物です。
そんな藍瓶のなかにそっと潜らせる染め方に「瓶覗き」という粋な名前を与える感性を、私はほんとうに素敵だと思うのです。
ちょうど今くらいの、初夏の風が似合う色です。
鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
また、シンガーソングライターの一面も持っています。
6月に初のオリジナルアルバムのCDをリリースしました。
作詞作曲はもとより、ジャケットのイラストも自身の作品です。
「烏兎匆匆」
全7曲入り/1500円(税込)
こちらからオンラインで購入できます。
https://reiko-ayusawa.com/
当分の間、送料無料です。
色見本参考:https://www.colordic.org/colorsample/2090