鮎沢玲子さんの季節で楽しむ日本の色≪【茜色】あかねいろ≫

「夕焼け小焼けの赤とんぼ 負われて見たのはいつの日か」

誰でも一度は耳にしたり歌ったりしているはずです。

日本でいちばん有名な童謡かもしれません。

赤とんぼはいかにも秋を感じさせる風物詩。

こんな曲が似合う季節がもうすぐです。

赤とんぼとは、アキアカネ、ナツアカネ、ミヤマアカネなど、アカネ属の赤い色をしたトンボの総称なのですが、実際国内には20種類前後の赤とんぼがいるそうです。

赤とんぼの生態は、水田などの水のなかで育った幼虫(ヤゴ)が成虫となり、何度も脱皮を繰り返して徐々に赤い色を濃くしていくそうです。

調べてみて意外だったのは、真夏の7・8月は避暑のため高原などの涼しい場所に移動して過ごし、秋になると山から里に下りてくるということでした。

あの細い体と繊細な羽根でそんな長い距離を移動できるなんて驚きです。

だから涼しくなると急に赤とんぼの姿を見かけるようになり「あぁ、もう秋だな」なんて思うのです。

ところで、赤とんぼのアカネ属とは昆虫の分類ですが、植物にもアカネ属があるのです。

アカネの語源は、野山に自生していたつる草の赤い根からきています。

昔はそれを染料にして染めていました。

世界を見渡しても、他の赤色染料(たとえば紅花、蘇芳、臙脂虫など)に比べ、茜は最も古くから使われていました。

日本の色名にも「茜色」があります。

しかし、赤根から鮮やかな赤色を抽出するのは難しかったので次第にすたれ、蘇芳や紅花で染める方法が主流になっていきます。

しかしながら「茜色」という色名は今も残っています。

「あかね」といえば、万葉集のなかにこんな有名な歌があります。

おそらく古文の教科書で読んだ記憶があることでしょう。

「あかねさす紫野行き標野行き 野守は見ずや君が袖振る」

額田王(ぬかたのおおきみ)が詠んだ歌です。

「あかねさす」は紫にかかる枕詞で、陽の光で赤く色づいて見えるさまを表しています。

天武天皇(大海人皇子)と結婚した額田王ですが、後に天武天皇と別れて、その兄である天智天皇(中大兄皇子)とも恋人関係だったと言われています。

紫草の繁る御料地で、あなた(大海人皇子)がそんなに袖を振る(恋心を表す行動、求愛のしぐさ)と、野守に見られてしまうではありませんか。

・・・という歌なのですが、実際には宴の席で、以前の関係性をもとに遊び心で詠んだ歌だといわれています。

ふたりの天皇との恋をネタに後世に残る歌を詠んでしまった額田王。

たいした女性歌人ですし、このころは、なんておおらかな時代だったのか・・・と思いを馳せます。

こんな「あかねさす」で有名な歌もあることから、「茜色」の名前が色褪せなかったのかもしれません。

鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/

 

色見本参考:https://www.colordic.org/colorsample/2009.html

 

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