紅葉の季節も終わり、木々は葉を落とし、野山はすっかり冬の景色です。
江戸時代の日本には「枯野見」というものがあったのをご存じですか。
冬の少し暖かい日、郊外に冬枯れの景色を見に出かける行楽行事。
東京の向島あたりが、枯野見の名所だったそうです。
花見ならわかりますが、なにを好き好んで、なにもない荒涼とした景色を見に行ったのでしょう。
さかのぼると平安時代に、今日ご紹介する「枯野」という色名が生まれました。
「枯色」ともいいます。
草木の生気がなくなり、かさかさに乾燥した野山を思わせる薄い茶色で、少しグレーがかっています。
平安時代には以下のような美的な概念がありました。
元は価値があり、生気があったものが衰退し、力を失い、変り果てるさまを美しいとする概念です。
あらゆるものごとは無常であるとし、しみじみとした哀愁を自然のなかに見出しました。
これを江戸時代後期の国文学者・本居宣長が「もののあはれ」として提唱しました。
本居宣長は、その頂点を「源氏物語」だとし、これを機に平安時代の文学が人々に再評価されるようになります。
江戸の人たちの風流な遊び「枯野見」は、このような背景から人気になったのかもしれません。
また、江戸前期の有名な俳諧師(はいかいし)松尾芭蕉が、人生の最期に、こんな句を残しています。
“旅に病んで 夢は枯野を駆け廻る”
ここでもまた「枯野」が重要なポイントになっているようです。
ちなみに「枯野」は冬の季語。
枯れる、にまつわる色名はいくつも存在します。
「枯草色」は枯野よりも少し緑色に近い色味です。
他には「枯葉色」「枯茶」「木枯茶」などもあります。
日本の色名で「朽葉色」も同様ですが、朽ちて衰退していくものには、意外なほど多くの色名がつけられています。
紅葉を表す「紅葉色」(もみじいろ)がひとつだけなのに対して「朽葉色」のバリエーションは「赤朽葉」「青朽葉」「黄朽葉」「薄朽葉」・・・など、いくつもあるのです。
「もののあはれ」に象徴されるように、当時の日本人には、はかないものに対するしみじみとした感情がありました。
そこに細やかな観察する目を向けているのです。
愛情というほど熱くはなく、ただ見ている。現代の私たちにも、そのまなざしは受け継がれているでしょうか。
今の私たちには、冬になるとクリスマス・イルミネーションの楽しみがあります。
この時期は、日が短く夜の訪れが早いからこそです。
枯野を楽しめた風流な江戸庶民とは隔世の感がありますが・・・。
みなさま、どうぞすてきなクリスマス、そして年末年始をお過ごしください。
2016年も「季節で楽しむ日本の色」をお読みいただきありがとうございました。
鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
色見本参考:
http://www.colordic.org/colorsample/2329.htmlhttp://www.colordic.org/colorsample/2328.html