鮎沢玲子さんの季節で楽しむ日本の色≪【密陀僧】みつだそう≫

日本の色名について
ずいぶん長いこと携わってきたと思うのですが、
それでも「この名前、いったいどんな色?」
思うことがたまにあります。

色の名前から実際の色がまったく想像できないものに、
出くわすことがあるのです。

今回取り上げた「密陀僧」がそうです。

密教の密に、阿弥陀さまの陀、僧侶の僧。

この三つの文字が集まると、
何か宗教的で霊的な雰囲気が感じられます。

ところが実際の色は、明るくソフトな黄色です。
ちょっと肩透かしを食らった感じ。

タネを明かせば、黄色みを帯びた一酸化鉛の顔料の色で、
ペルシャ語の「mildassa」を音訳したものだそう。

それにしてもこの三つの漢字を当てたセンスにしびれます。

密陀僧は、一酸化鉛という鉛と酸素の化合物。

それから作られた顔料の色です。

赤みを帯びた薄い黄色。

すでに古代ローマ時代から存在し、
クリスタルガラスの彩色や壁画などに使われていました。

日本での代表的なものでは奈良の法隆寺にある
「玉虫厨子」(たまむしのずし)の密陀絵(みつだえ)です。

  

荏胡麻油に密陀僧を混ぜて加熱した密陀油に
顔料を溶いて描く、一種の油絵。

しかし一酸化鉛の成分が人体に有害なことがわかり、
密陀僧は美術工芸の材料として
次第に使われなくなって行きました。

変わったところでは、
密陀僧と皮蛋(ピータン)は関係があるのです。

皮蛋はアヒルの卵を強いアルカリ性の条件のもとで
熟成させて作る中国の食品です。

中華料理店などで食べたことがあると思います。

タンパク質の凝固を促進する働きがあるので、
皮蛋の製造に一酸化鉛(密陀僧)が使われていました。

食べすぎると鉛中毒になる危険性があり、
中国政府は近年、鉛の含有率の基準値を
厳しく設定しているとのことです。

日本を代表する宗教的な美術工芸に使われた顔料でありながら、
食べ過ぎれば中毒を起こす食品に関わり、
名前は厳かで霊的な三文字。

今回「密陀僧」の名前が深く私の心に刻まれました。

日本の色名は、やはり奥が深くおもしろいのです。

 

鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/

また、シンガーソングライターの一面も持っています。
6月に初のオリジナルアルバムのCDをリリースしました。
作詞作曲はもとより、ジャケットのイラストも自身の作品です。

 

「烏兎匆匆」
全7曲入り/1500円(税込)
こちらからオンラインで購入できます。
https://reiko-ayusawa.com/
当分の間、送料無料です

 

色見本参考:https://www.colordic.org/colorsample/fde0a5