日本の伝統的な草木染めの色「桑染」のことをまだ書いていませんでした。
クワ科の樹木「桑の木」の樹皮や根の皮を煎じて出た灰汁(あく)をを使って染めた色で、褐色味を帯びた薄い茶色です。
灰汁は媒染(ばいせん)と言って、染料を生地に定着させる働きがあるのです。
色名としては桑色、桑茶とも言います。
古い時代からあった植物染料を使った染色方法なのですが、桑の木そのものには色素が少ないため、繰り返し何度も染めなくてはなりませんでした。
染めの回数によって淡い色から濃い色まであり、ひとくちに「桑染」と言っても、幅広い色あいを指すのです。
濃い色の桑染は、何度も淡い色を染め重ねてできるわけですから、大変珍重されました。
実際、控えめで品のある、深い色合いになります。
8世紀はじめに編纂された『養老律令』のなかにある「衣服令」では、「桑」の色が黄色の上位に置かれていました。
時代は下がって、江戸時代のお洒落な人たちに好まれ、粋な小説のなかにもこの色は出てきます。
江戸後期には、やや黄色味がかった白茶色「桑色白茶」が流行しました。
桑染め小紋の足袋(たび)が人気だったとか。
粋ですね。
話は少し違う方向へ行きますが、桑の葉は蚕(カイコ)の餌になります。
養蚕発祥の地、中国において桑の木は聖なる木として位置付けられていました。
確かに蚕が絹糸を吐きだすという生産方法って不思議です。
絹とは、植物と生物のハイブリッドで生み出された貴重な繊維と言えるでしょう。
日本においても、桑の木は霊力があると見なされていました。
養蚕の普及ともに桑の木は日本人にとって大切なものとなり、薬効成分があることから箸や杖として使うと病気を防ぐと信じられていました。
余談ですが、私は自分で作った「ライアー」という弦楽器を何台も所有しているのです。
そのうちの一台が桑の木でできています。
一説によると、知恵と経済と芸能の女神「弁財天」が弾いている琵琶は、桑の木でできているとか。
日本でも中国でも桑の木が神聖視されていたことを考えると、うなづける話です。
桑の木はとても堅くて、彫るのは大変でした。
しかしできあがってみると、堅いだけあって、澄んだ美しい音色のライアーになり、大変満足しています。
桑の木の色は確かに黄色味がかっており、桑染に似た色あいです。
桑の木が神聖なものとして大切にされてきたこと、桑染の色もまた珍重され好まれてきたこと。
今回、この文章を書いたおかげで、あらためて知ることができました。
桑の木のライアーもますます大切な1台となりました。
鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
色見本参考:https://www.colordic.org/colorsample/2184
https://www.colordic.org/colorsample/b39469