この初夏の時期、田園地帯で畑一面に黄色い穂が実っているのを見かけます。
植物や農作物に関心が薄かったころ、秋でもないのになにが実るのだろう・・・と私は不思議に思ったりしました。
やがてそれが、麦の穂であることを知ります。
淡い黄色の絨毯に埋めつくされた麦畑の様子を、麦の実りの意味をこめて「麦秋」(ばくしゅう)と呼びます。
「秋」の文字が入っていますが、俳句では「夏」の季語です。
日本の暦で季節を表す「七十二候」に「麦秋至る」という候があります。
七十二候とは1年を72に区分したもので、それぞれに季節感を表現する短い言葉がつけられています。
1年を24等分した「二十四節気」をさらに3つ(初候・次候・末候)に分けたもので、より具体的に季節の移り変わりを表しているのです。
「麦秋至る」の期間は、だいたい5月31日~6月4日ごろ。
この時期、梅雨入り直前の晴れの日に麦を収穫し、次の作物を育てる準備をします。
麦のあとに米を栽培する「二毛作」が行われることがあるのです。
この二毛作は、すでに鎌倉時代からあったそうです。
田畑を効率よく使う智恵ですね。
「麦秋」を今月のテーマにすることは決めていたのですが、これを表す日本の色とはなんだろう? といろいろ調べてみました。
日本の秋の実りである稲穂の色を表現するとしたら「黄金色」です。
これは秋の陽射しが少しオレンジ色にシフトするせいもありますが、やはりお米が実った色は心理的にも見える色でも黄金色の「ゴールド」がふさわしいです。
では、麦はどうなのか・・・で、こんな色を見つけました。
「窃黄」・・・せっこうと読みます。
「窃」の文字は「ひそか」という意味です。
「窃窃」はひそひそ、「窃盗」はこっそり盗むことを意味します。
もっと情緒ある言葉なら「窃慕」でひそかに思い慕うこと。
「窃黄」はくすんだ淡い黄色で、まさにひそかな黄色。
稲穂のつやつやと輝く黄金色に比べて控えめな黄色で、この色名がイメージに近い気がしました。
最後にこんな話題も。
独自な映像表現で世界的にも高く評価されている、映画監督の小津安二郎。
小津監督による「麦秋」という映画があります。
戦後6年しか経っていない1951年の作品です。
私はまだ観ていないのですが、あらすじを読むと、豊かに実った麦畑のシーンが印象的に使われているようです。
この時代ですから当然映画はモノクロ作品なのですが、もしかしたら麦畑のシーンが「窃黄」色に感じられるかもしれない、なんて思います。
鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
色見本参考:
https://www.colordic.org/colorsample/2238.html