薬剤師のA氏

薬剤師のA氏
『オーラソーマ 奇跡のカラーヒーリング』:「5 薬屋」から                         ヴィッキー・ウォール
        人生とはたえざる変化です。
誰でも最初から人生のベテランというわけにはいかないので、誰もが新たに人生に参入したときには何が何やらわかりません。
そして新たな状況が生まれるたびに、どうなるのだろうと戸惑うわけですが、不思議なことに、というか当然なのかもしれませんが、人生にはたいていの状況に対してだいたい対処の仕方がすでにあるものなのです。
なぜなら、もしそれが誰にでも起こりうる状況なら、当然そのような状況に遭遇した先人たちがいるわけで、その人たちがたどった解決策が納得がいくものなら、後人たもやはりその道をたどることになるからでしょう。
そういう体験を少しずつ重ねながら、人間は大人になっていくのでしょうね。
というわけで、ホースれー薬局の看板薬剤師であったホースレー氏亡き後、ドリスとヴィッキーさんのふたりだけでは、実務は処理できても、その資格が無いという状況に陥ったようです。
でも、そういう状況に陥る薬局はたくさんあったわけで、先人たちはそういう場合の対処法をちゃんと見つけていたんですね。
かくてどリストヴィッキーさんは実質的な経営権や実務を担いながら、名目上の看板薬剤師を雇うことになったようです。
        ——————————————————————– さて、遺品の整理が終わると、次は薬局をどうするかでした。 薬事法によれば(現在でもなおそうですが)、ちゃんとした資格を持った薬剤師がいなければ、店内で調剤するのは違法だったのです。 ドリスと私はあくまでも店内調剤者であり、いくらドリスが薬局組合のメンバーで、二十年以上薬を調合しているといっても、法律によれば、壁にかける薬剤師の免許がなければ、店は続けられません。
これは、資格を持たない家族を残して薬剤師が死んだ場合、常に問題となることです。 そういった場合、現実の打開策として薬剤師が雇い入れられることになっており、たいていは、退職してぶらぶらしている老人に白羽の矢が立ちました。
そして現れたのが、A氏です。 彼はかなり年配のひょうきんな人物で、賭け事に目がなく、この世のあらゆる歓楽地を巡ってきた人で、調剤室のすみで思いがけず彼を見かけると、たいていは新聞の競馬欄をにらんで、一心不乱に次のレースの予想をしていました。 なんと愛しのホースレーの、なじみのそのスツールの上でです。
A氏の仕事は、それほどやっかいではありませんでした。 ドリスが全体の見通しをつけ、主に必要な商品のチェックや確認といったことだけを、彼に頼んだからです。 在庫の整理は彼の仕事となり、おかげで私たちは毎週のこまごまとした骨の折れる仕事から解放されました。 ありがたいことに、ただ期限の来た請求書の支払いをするだけでよくなったのです。
ドリスと私は、その辺りのちょっとした店でランチをとるようにしていましたが、A氏はいつも、お昼もずっと調剤室に残っていました。 私たちは、彼が休み時間にゆっくりできるようにと、店に戻るまでドアに鍵を掛けておくことにしていましたが、私たちが戻ると、彼はいつも愛想よく迎え、少しぐらい遅れてもいやな顔一つ見せませんでした。
      『オーラソーマ 奇跡のカラーヒーリング』(p44-45)
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ある意味では、ヴィッキーさんにとっては、いちばん自由な時代だったかもしれません。
でも、そういう状況にずっととどまっているということもできないのでしょうが。
pari 記
       
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