「自然の中にたたずむ」ことをテーマに
「色と光の中に存在する」から 柏村かおり
最近何度か『置かれた場所で咲きなさい』というタイトルの本の広告を見かけたことがあります。
まあ“置かれた場所”というか、この世で生きているかぎり誰もが、ある程度は社会的に制限された条件を受け入れているわけですよね。
まったく自由な人など、普通の人間にはありえないことだろうと思います。
とは言っても通常は、ある程度は行きたいところに移動できる自由を誰もが持っているように、何となく思ってしまうところがあります。
でも考えてみたら、そういう人ばかりではないわけですね。
いろいろな理由で、さまざまな程度に移動の自由を制限されているという方は少なくないのかもしれません。
ある人々は一定の建物の中に、ある人々は部屋の中に、また別の人々はベッドの上に、移動の自由を制限されているだろうことは容易に想像できます。
そして高齢化が進むこれからの社会では、移動の自由がある程度制限されている方々はけっして例外的な存在ではなくなるのかもしれませんね。
人間は、自分がそういう状況になってみないかぎり、なかなかそういう状況を自ら考えてみようとなどはしないはずです。
わたしも入院の経験がありますが、それは一時のことです。
でも、養護老人ホームなどの入居者は、それが最期の時までつづくとわかっている場合もあるでしょうね。
カラーコーディネーターをなさっていた柏村かおりさんは、自分を可愛がってくれたお祖母さんが過ごす空間に、住み慣れた海の雰囲気を取り戻してあげかったのだそうです。
施設のなかの方々は、もう自由に外の空間には出ていけないんですね。
では、柏村さんの記事をご覧ください。
———————————————————— 建築物の色彩計画を行っていく私の中で、特別養護老人ホームの色彩計画に、ぜひ携わりたいという強い気持ちがありました。 同じ「住まい」でも、高齢者の施設というものは、一般の方々の住まいとはまったく違う側面を持っていたからです。 私自身、祖母が最期のときを特別養護老人ホームで迎え、亡くなる直前までの約2 週間を、ともに老人ホームで過ごしました。
訪問するのと生活をするのとではまた違う発見が多く、なによりも、すべての入居者が自分の意志では自由に外に出ることはできないのだということを改めて認識しました。
海の町で生涯を過ごした祖母に、ここにいながらにして海を感じてもらうにはどうしたらいいのか。 まだオーラソーマには出会っていなかった私でしたが、施設にいるすべてのお年寄りに空や、光、木々や風を、せめて色彩で感じてほしいと強く願いました。 そして、祖母の死後まもなく、導かれるように私にそのチャンスが訪れたのです。
2002 年から3 年間にわたり3 棟の特別養護老人ホームの色彩計画を行いました。
天井には空、廊下の壁には優しいグリーンで描かれた草のクロスを貼り、草原を再現、私が描いた木の葉が廊下を舞いました。
浴室の壁には、カラータイルによって空にパステルカラーの風船が放たれ、山並みや、風に舞う花が描かれました。
その色彩は私たちの目からではなく、高齢者の多くが患っている白内障の状態の視力から見て、ベストな色の明度と彩度にしました。
当時は、これまでとは違う発想と色彩に、コストや手間の問題から多くの反対を受けました。 それでも、私は「自然の中にたたずむ」ことをテーマに、終の棲家となる高齢者施設を大自然が感じられる色で描き続けました。
人間にとって生きることそのものが、自然界や宇宙と一体となることです。 自然は人々の心身が病み、傷ついたときのために天から与えられた最高の薬です。 それを生涯にわたり受け取っていく権利は、どの人にも与えられています。
ただ実際は、施設にいる人だけでなく、日常的に自然の中へ身をおくということは難しい人も多いと思います。 そういった人々のために、オーラソーマのような画期的なカラーケアシステムがあるのです。
自然はいつも、私たちに深い安らぎを与えてくれる一方で、空も海も星も目の前にありながら、この手に掴むことのできない存在です。 それが、この手のひらの中にすっぽりと包み込まれてしまう自然を、自らが選んで、自身に取り入れることができるのはまさに奇跡です。
『リビング・エナジー』Vol.6(p47-48) ————————————————————
なるほど……。
本当に人の立場に立って考えるとき、人間は強くなれるものなんですね。
pari 記
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