「自然の中にたたずむ」ことをテーマに
「色と光の中に存在する」より 柏村かおり
人間の世界にはさまざまな職業があります。
あらためて考えると、そういう多様多彩な職業に就く人々がいるということでもあります。
誰もが自ら望んでその職業に就いたわけではないのかもしれません。
けれども何かの縁があってその職業についたのでしょうね。
それらの職業の大部分は、おそらくまた社会の大部分の人々にとってはそんな職業があることすら思い浮かばないような職業なのかもしれません。
人間社会に存在する多様多彩な職業は、人間の一生の何らかの段階で現れてくる場面と関係しているでしょうね。
たとえば、人間が生まれてくる場面では、産婦人科の先生とか看護婦さんとかそういった職業が関係あるかもしれませんね。
そして子どもが赤ん坊のうちは病気をしやすいものですから、何度か小児科の先生と縁があるかもしれません。
また子どもが赤ん坊から幼児になったら、今度は保育園や幼稚園の先生などと縁ができるかもしれません。
次に学校に入ったら学校の先生と縁ができるでしょう。
先生ばかりが出てきましたが、むろんそれだけではなく、小学校を卒業するまでにもいろいろなお店やさんや乗り物などでいろいろな職業の人に触れることでしょう。
それに誰でもとても身近に感じられるのは、ご家族の誰かが就いている職業でしょうね。
そして中学校、高校と進んで、進学するか社会人になるかを考えるころには、何になりたいなとか、自分がどんな職業に就くのかなどと、誰でも考えているものなのでしょうか?
不思議だなと思うのは、育っていく命に関係する場面・・・たとえば、幼稚園の先生などの仕事を目指す人がいる一方で、枯れていく命、たとえば、終末期医療などを目指す方々もいらっしゃるということです。
どちらが欠けても困るわけでしょうが、神の配財とでも言うのか、とても不思議なことだなと思ってしまいます。
今回の柏村かおりさんの文章を読んで、そんなことを思いました。
では、柏村さんの「色と光の中に存在する」からそんなことを連想させた箇所をご紹介しましょう。
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建築物の色彩計画を行っていく私の中で、特別養護老人ホームの色彩計画に、ぜひ携わりたいという強い気持ちがありました。
同じ「住まい」でも、高齢者の施設というものは、一般の方々の住まいとはまったく違う側面を持っていたからです。
私自身、祖母が最期のときを特別養護老人ホームで迎え、亡くなる直前までの約2週間を、ともに老人ホームで過ごしました。
訪問するのと生活をするのとではまた違う発見が多く、なによりも、すべての入居者が自分の意志では自由に外に出ることはできないのだということを改めて認識しました。
海の町で生涯を過ごした祖母に、ここにいながらにして海を感じてもらうにはどうしたらいいのか。
まだオーラソーマには出会っていなかった私でしたが、施設にいるすべてのお年寄りに空や、光、木々や風を、せめて色彩で感じてほしいと強く願いました。
そして、祖母の死後まもなく、導かれるように私にそのチャンスが訪れたのです。
2002年から3年間にわたり3棟の特別養護老人ホームの色彩計画を行いまた。
天井には空、廊下の壁には優しいグリーンで描かれた草のクロスを貼り、草原を再現、私が描いた木の葉が廊下を舞いました。
浴室の壁には、カラータイルによって空にパステルカラーの風船が放たれ、山並みや、風に舞う花が描かれました。
その色彩は私たちの目からではなく、高齢者の多くが患っている白内障の状態の視力から見て、ベストな色の明度と彩度にしました。
当時は、これまでとは違う発想と色彩に、コストや手間の問題から多くの反対を受けました。
それでも、私は「自然の中にたたずむ」ことをテーマに、終の棲家となる高齢者施設を大自然が感じられる色で描き続けました。
人間にとって生きることそのものが、自然界や宇宙と一体となることです。
自然は人々の心身が病み、傷ついたときのために天から与えられた最高の薬で
す。
それを生涯にわたり受け取っていく権利は、どの人にも与えられています。
ただ実際は、施設にいる人だけでなく、日常的に自然の中へ身をおくということは難しい人も多いと思います。
そういった人々のために、オーラソーマのような画期的なカラーケアシステムがあるのです。
自然はいつも、私たちに深い安らぎを与えてくれる一方で、空も海も星も目の前にありながら、この手に掴むことのできない存在です。
それが、この手のひらの中にすっぽりと包み込まれてしまう自然を、自らが選んで、自身に取り入れることができるのはまさに奇跡です。
『リビング・エナジー』Vol.6(p47-48)
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生まれてきて、死んでいく。
わずかそれだけともいえますが、その過程で人間はいろいろなことを体験するのですね。
pari 記