鮎沢玲子さんの季節で楽しむ日本の色≪【鳶色】とびいろ≫

小説やヒットソングの歌詞などで「鳶色」という言葉を、目にしたことがあるかもしれません。

聞いたことはあっても、「鳶色」とはどんな色なのかはっきりと知りませんでした。

「鳶色の瞳」という表現は、日本人にしては明るい瞳の色で、けがれのない澄みきったまなざしを表すようなときに使われるようです。

いずれにしても良いイメージがともなう色名です。

 

 

鳶色はタカ目タカ科の猛禽類である鳶の羽根の色からついた色名で、赤みのある茶色です。

色名としてはっきり用いられるようになったのは江戸時代からです。

鳶は山間部から平野のかなり都市部に近いところまで、日本中ほとんどのところに生息しています。

河原の付近などで上空を旋回する鳶を見たことがあるでしょう。

親しみをこめて「とんび」と呼ばれることもあります。

 

 

鳶は日本の神話に、神からの遣いとして登場しています。

『日本書記』のなかに、日本を建国に導いた金色の鳶「金鵄」(きんし)が描かれていますが、これは「無血勝利」の象徴です。

縁起の良いものとして扱われており、たとえば清酒の「キンシ正宗」はここからついた銘柄です。

鳶について、興味深いのは「鳶職」と呼ばれる職業のことです。

 

建設現場の高所で作業する専門の職人のことで、高い足場などの間を「飛ぶ」ようにすばやく移動することから「飛び」「鳶」になったという説があります。

お正月明けの「消防出初式」で梯子乗りを披露するのは、鳶職の人をはじめ、日本文化伝承の活動している人たちです。

これは火災が頻発した江戸において、消火活動は延焼を避けるために建物を壊すことが必要だったため、「火消し」イコール「鳶職」の出番だったことの名残です。

現代において「梯子乗り」は火災予防を呼びかける意図もあると思いますが、一種の神事として「奉納」の意味合いが強い気がします。

 

 

鳶職のことをいろいろ調べていたら、ますます興味深いことに出会いました。

老舗の鳶職はもともと神社の氏子として「神事」における大切な役割を担っていたといいます。

たとえば、長野県諏訪の「御柱祭」「木遣り歌」を歌うのは、今も祖先が鳶職だった家系に世襲されているそうです。

 

 

今回「鳶色」を通じて、鳶にまつわる日本の神話、そして鳶職と呼ばれる人々と神事のつながりを知ることができました。

自然界の生き物に感じていた神聖さや、命がけで仕事をする専門職の人たちに対する尊敬の念が、「鳶」につながっていたのでしょう。

日本語には、「茶色の瞳」ではなく「鳶色の瞳」という言葉が存在することを、嬉しく思います。

 

       ………○…………○…………○………

 

鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。

http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/

 

 

色見本参考:

https://www.colordic.org/colorsample/2276.html

 

 





Twitterボタン
Twitterブログパーツ