鮎沢玲子さんの季節で楽しむ日本の色≪【早蕨色】さわらびいろ≫

今年は例年より桜の開花が早く、あちこちから桜の便りが届きました。

なんだかあっという間に桜前線がやってきて、私の住む北関東でも3月下旬には満開。

SNSのフィードには、連日桜の風景が並んでいました。

気づけはすっかり春爛漫です。


とはいえ、標高の高い山間部や北の地域では、ようやく雪が消えて緑が顔を出しはじめた・・・という場所もあることでしょう。

なにしろ日本は南北に長いですから。

今は4月ですがあえて北国の春を想い、春に芽を出す植物の色を取り上げてみたいと思います。

あまりにも桜の季節が早くきてしまったので、早春を感じる暇がなかったせいかもしれません。


今回の色は「早蕨色」(さわらびいろ)です。

野山に芽を出したばかりの蕨のことを早蕨と言い、早蕨色は深く渋い緑色です。


蕨は、早春に地面から拳のような形の穂先が顔を覗かせます。

くるくると巻いた形が可愛らしく印象的です。

春を象徴する形として、和菓子の上生菓子に描かれたり、陶器の図案や和装のモチーフに使われたりしています。


余談ですが、熨斗(のし)をひらがなで続けて書くと早蕨の形に似ているため「わらびのし」へと変化しました。

簡単な贈答の時に使われますが、みなさんもきっと目にしたことがあると思います。


「襲(かさね)の色目」での「早蕨」もあります。

襲の色目とは、平安時代に宮中で用いられた色の組み合わせの名前です。

俗にいう十二単の装束では、何枚もの衣裳を重ねて着ました。

そこに四季折々の自然を模して、色の組み合わせを取り入れたのです。


早蕨は、表は紫、裏には青を用います。

ここでは青と言っても草木を表す緑色です。


万葉集にこんな歌があります。

石走る(いわばしる) 垂水(たるみ)の上のさわらびの

萌え出づる春に なりにけるかも

作者は志貴皇子(しきのみこ)

万葉集のなかでも傑作と言われている和歌で、歌人の斎藤茂吉が絶賛したと伝えられています。

たたみかけるように「・・・の・・・の・・・の」と続き「萌え出づる春」へと一気に進んでいくリズムが秀逸です。

冒頭の「走る」という言葉と相まって、春が来たのだという勢いとワクワクする気持ちが感じられます。


他にも早蕨や蕨を詠んだ歌は多数残されていますし、源氏物語では四十八帖の巻は「早蕨」という名がついています。


春に芽を出す植物は数々ありますが、早蕨はその姿も名前も魅力的だと感じます。

今年はあっけなく春が来てしまいました。

今からでも早蕨のモチーフを探してみようかと思います。

和菓子や陶器や和装の小物など。

桜に比べたら当然地味ですが、なぜだか心惹かれるものがあるのです。

 

鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/

また、シンガーソングライターの一面も持っています。
6月に初のオリジナルアルバムのCDをリリースしました。
作詞作曲はもとより、ジャケットのイラストも自身の作品です。

 

「烏兎匆匆」
全7曲入り/1500円(税込)
こちらからオンラインで購入できます。
https://reiko-ayusawa.com/
当分の間、送料無料です

 

参考:http://www.so-bien.com/kimono/%E8%89%B2/%E6%97%A9%E8%95%A8.html