この時期、スーパーマーケットやデパートの果物売り場には、鮮やかな金柑がならんでいます。
金柑の旬は冬。
ころんとした黄色の実が愛らしくて、つい手に取ってしまいました。
買って帰り、手のなかに転がしてみると、子どものころに遊んだよく弾む小さなボムボールを思いだします。
懐かしいような嬉しいような。
金柑はそのまま食べてもいいのですが、甘露煮にするのがいちばん美味しい食べ方だと思います。
もともとつやのある実がさらにつやつやになって、黄色というより橙色に近く、存在感のある色になります。
日本の色名で言うなら「紅鬱金」(べにうこん)の名前が似合いそう。
紅鬱金は、下染めとしてまず鬱金で染めます。
これはよくカレーに使うスパイスのターメリックと同じもので、ショウガ科の多年草ウコンの根茎から作られる黄色の染料です。
黄色に染めた後に、紅花や蘇芳(すおう)、茜(あかね)などの染料で、赤い色を染めます。
それによって鮮やかな黄色みの橙色になるのです。
黄色と赤のバランスによって、ひとくちに紅鬱金と言っても色の幅はさまざまです。
別な色味をかさねて染めることで、厚みを感じさせる色あいになります。
こういうところが、天然染料で染める醍醐味と言えるでしょう。
金柑をさらに甘露煮にしてこっくりとした、でもつやのあるオレンジ色になった様子をたとえるのに、紅鬱金はぴったりの色名だと思います。
話を金柑に戻しますと、美味しいだけでなく、この季節の風邪予防に効果を発揮する優れた食材です。
咳や喉の痛みにも効果があるとされています。
生のままよりも、煮たりシロップ漬けにしたりすれば保存期間が長くなります。
金柑はその名前からも丸い形の見た目からも、おめでたい食材としておせち料理に加えられることがあります。
和食で焼き魚に添えられるほか、お茶うけや箸休めにもいいですね。
日本での金柑の歴史を調べてみましたら、ちょっとおもしろいことがわかりました。
江戸時代の文政9年(1826年)のこと。
清の国(現在の中国)の商船が遠州灘沖で遭難し、清水港に寄港しました。
そのときの船員がお世話になったお礼にと、清水のひとに砂糖漬けの金柑を贈ったそうです。
その金柑の種を蒔いたら、やがて実がなって日本全国に広まった、というお話です。
きっと諸説あるのでしょうが、もしこのお話がほんとうなら、ロマンがあると思いませんか。
命拾いした中国の船員さんと親切にした清水の人々。
そこで交わされた感謝の気持ちが、今私たちが食べている金柑のルーツだとしたら。
鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
色見本参考:
https://www.colordic.org/colorsample/2233.html