3月の声を聴くと、とたんに春めいた感じがします。
もうだいぶ日が長くなってきました。
20日には春分の日がやってきて昼と夜の長さが同じになり、ここから季節は本格的な春となります。
春分の日とは、春のお彼岸の中日(真ん中の日)でもあります。
反対側の秋のお彼岸は、秋分の日。
お彼岸に作る「ぼた餅」と「おはぎ」が同じものだと知ったのはいつのことだったでしょう。
おそらくそれは若いころで、なんて面倒くさいことを・・・と思いましたが、この手間をかけることこそが「風流」というものです。
春のお彼岸には、春の花「牡丹」からついた名で「ぼた餅」(もともとは牡丹餅)、秋のお彼岸には秋の花「萩」を丁寧にして「おはぎ」と呼んでいるのです。
以前、萩色について、こちらに書かせていただいたことがありました。
どちらもオーラソーマでいえば「マゼンタ」色の花です。
マゼンタの彩度を落すと(くすませると)、お餅をコーティングする餡の小豆色に近づいていきます。
そんな理由で、牡丹と萩が名前に使われているのかもしれません。
さて、今回取りあげる日本の色は「牡丹色」です。
牡丹の花は、中国から日本に入ってきました。
それは奈良時代の終わりから平安のはじめのころのことで、中国(当時は唐)と同じように優美な花が、朝廷でもてはやされていたそうです。
堂々とした大きな花は「百花の王」と称されるほどでした。
平安末期に武士が登場すると、甲冑や刀などの意匠に牡丹があしらわれたり、唐獅子や龍などと組みあわせたりして、強さを誇る大胆なデザインに用いられるようになります。
そして、美しい女性の姿を形容するときにも牡丹は登場します。
「立てば芍薬、座れば牡丹・・・」の表現です。
牡丹の花の妖艶さや豪華さがマゼンタの色とよく似あい、人目を惹く美しい女性の姿を連想させます。
しかし、衣装の色として「牡丹色」が流行したのはだいぶあとのことで、明治の終わりころです。
化学染料による染色技術の発達と、色鮮やかな衣装を好む風潮がその時代に一致したのです。
話は、ぼた餅とおはぎに戻ります。
牡丹と萩・・・どちらもマゼンタ色をした花ですが、雰囲気がだいぶ違います。
大きな花が妖艶で人目を惹く牡丹と、小さな花がたくさん咲き控えめに見えて、実は生命力が強い萩は、対照的と言っていいかもしれません。
まるで、陽の牡丹と、陰の萩。
私は、この二つを対に見立てるところに、日本らしさを感じます。
春のお彼岸は季節が春から夏へと向かう「陽」の時期であり、秋のお彼岸は逆に「陰」が深まっていく時期です。
同じものであっても、その時期に合った呼び方をすることで、季節のうつろいを感じ、大地のエネルギーに自然と共振していたように思うのです。
今は一年を通して「おはぎ」が一般化しているらしいのですが、それは残念なことだと思います。
3月の春のお彼岸には、ぜひ「ぼた餅」をお供えしてください。
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鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
色見本参考:
http://www.colordic.org/colorsample/2026.html