日本の旧暦には、七十二候という季節を表現する短い文のようなものがあります。
二十四節気を更に三つに分け、約5日間ごとに割り振られているものです。
二十四節気で、7月23日頃から8月6日頃までが「大暑」です。
文字通り一年で最も暑い時期なのですが、今年は梅雨明けが遅くて、夏らしい日が待ち遠しいくらいです。
大暑の2つ目の七十二候は「土潤溽暑」で、つちうるおうてむしあつし、と読みます。
まさに夏本番の様子を表しています。
太陽が照りつけて大気はじっとりと蒸し暑く、地面からは陽炎(かげろう)が立ち昇ります。
初めて陽炎を見たときの記憶があります。
ようやく小学校に上がったくらいだったか、夏休みに家族でドライブ旅行に出かけました。
よく晴れた暑い日でした。
向かっていく先の地面がゆらゆらと揺れているように見えるのに、そこまで車が到達すると何事もなくて不思議だなと思っていたら、それは陽炎だと父が教えてくれました。
郊外の道の両側には樹々や雑草が生い茂り、真夏の太陽を照り返していました。
草むらから立ち昇る熱気を「草いきれ」と呼びます。
草の湿気を帯び、むっとする熱気は、深い緑の匂いを含んでいます。
夏の季語です。
この句はまさに陽炎を詠んだのでしょうか。
『子を連れて 草いきれの道 曲って見える』
北原白秋
真夏の草のように力強く、それでいて爽やかさもある緑色が「草緑色」です。
やはり国土に山や森林が多いだけあって、日本の色名には緑色のバリエーションが多いです。
そして季節によっても緑色の見え方は変わり、それに応じた色の名前が数々生まれました。
同じ植物の緑でも、松や杉などの常緑樹の色と、この「草緑色」とでは違いがあります。
常緑樹の緑はたとえば「常盤色」(ときわいろ)のように重厚さと落ち着きがあり、永遠に変わらない緑色をイメージしています。
一方「草緑色」の力強さは夏だけのものです。
勢いがあり何か潔い、そんななかにもちょっと刹那的な匂いのする緑色です。
日本の夏は長いようだけれど、終日よく晴れて本当に夏らしい日というのは、それほど多くはないのかもしれません。
そんな日を有意義に過ごすことができますように。
良き思い出が残せますように。
鮎沢玲子(あゆさわ れいこ) プロフィール
有限会社「カラーズガーデン」代表。
英国オーラソーマ社公認ティーチャー。
栃木県宇都宮市生まれ 生家は染物屋を営む。
中学校美術教師を経て、インテリアコーディネータとして14年間
住宅メーカーに勤務。
2002年よりオーラソーマ・プラクティショナーとして独立開業。
2006年より公認ティーチャーとして活動中。
http://ameblo.jp/aurasoma-c-garden/
色見本参考:https://www.colordic.org/colorsample/2e7e16
https://www.colordic.org/colorsample/2107